築35年の店舗兼住宅の店舗部分を
家族4人の暮らしの場にリノベーション。
子どもたちがぐるぐる走れる楽しさと
木の素材の気持ちよさに満ちた空間に。
所在地:山形県寒河江市
家族構成:ご夫婦&お子さま2名 他母屋に親世帯
延床面積:65㎡(リノベーション施工面積)
着工:2017年3月/竣工:2017年12月
キッチンから2階まで家のほとんどが見渡せる大空間のある暮らし
昔は祖母と両親がこの家に住んでいました。
祖母はここでお茶屋さんをしていたので、いわゆる”店舗兼住宅”ですね。
今は両親だけになったため、その祖母のお茶屋さんのスペースをリノベーションして私たち子世帯の居住空間にしました。
この住まいができるまではコンパクトなアパートに住んでいたので、引っ越してきた当初は子ども達が広い空間に慣れなくて「トイレが怖い」って(笑)
2階のトイレからキッチンにいる私の姿は見えるのに、です。
■二階スペースからの景色。キッチンもリビングもダイニングもすべて見渡せる
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- キッチン側に立つと2階まで家のほとんどが見渡せる、ということでもありますか?
ええ、そうなんです。お風呂もキッチンも一直線につながっているおかげで、キッチンに立つと死角がほとんどなく、家のなか全体をだいたい見渡すことができます。だから、シンクで食器の洗い物をしながらでも子どもたちがお風呂に入っているのも、遊んでいる様子も、寝ているところまでも、ぜんぶわかります。キッチンにさえ立っていれば、そこが司令塔のポジションという感じなんですね。
ここに引っ越してくる前は、見えないところで遊んでいる子どもたちのところでガチャンと物が壊れるような音を聞くとビクッとしましたし、いつの間にか喧嘩がはじまっていたりすると結局どっちが悪いのかは見てもいないからわからなくて、子どもたちをフォローしてあげることができませんでした。それが、この家のシンクに立っていれば、子どもたちが何をしているのかずっと見ていられて、何が原因で喧嘩になったのかもしっかり確認できるので、それはすごくいいですね。
ぐるぐる回れる、動ける、走れる。
子どもは楽しく、大人に快適な空間。
子ども達の遊び方といえば、この本棚の一番右端にはしごをつけて、アスレチック感覚で遊べるようにしています。そして登った先にさらに遊べるスペースが用意してあってそのまま二階に登れるようになっています。なので、はしごから登って二階に行って階段から降りてきて・・・そうやって、子どもたちが楽しんでぐるぐるとはしゃぎ回っています。
■左壁の本棚の一番端には、子供が本棚をはしご代わりに登るための手すりが設置されている
「ぐるぐると楽しむ」ことができる回遊性というのは、この家のテーマのひとつかもしれませんね。
キッチンもアイランド型のキッチンにすることによって、ぐるぐる動けるような動線にしてもらいました。その結果、高い回遊性が生まれましたし、しかも十分なスペースが確保されているので大人ふたりで料理してもすごく作業しやすいです。
時間の経過とともに素材の表情が変化していく
ほぼ素材そのままを意識
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- キッチンのワークトップ(天板)もステンレスで。背面も一面ステンレスで。かっこいい上にすごく掃除がしやすそうですね。
ステンレスを選んだのは素材的に色々考えてみて、一番シャープな印象が出るのでいいだろうと思ったからです。もちろん、ステンレスなら掃除もしやすいのではないかなとも考えました。
■シャープなかっこ良さと優れた機能を持つステンレス背面のキッチン
全体として「ほぼ素材そのまま」、ということを意識しています。
もちろん化粧しているところも一部ありますが、あとのほとんどは塗装もせず、素材そのまま。外壁さえもモルタル塗りっぱなしです。一度塗装をしてしまうと、結局そのうちまた塗り替えをしなくてはいけなくなってしまいますから。それならいっそ塗装はしないことにして、時間の経過とともに素材の表情が変化していく様子を楽しむのもいいかなぁと考えました。
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- 確かに素材の印象を強く感じられるような空間になっていますね。
はい、白い壁と木の質感もそうです。植物はもちろん、インテリアとしてどんなものを置いてみても決して邪魔な印象にならず、どれもしっくりとくるのでお気に入りです。でも、本当を言えば、はじめてこの空間を見たときには「一体いつ壁が塗られるんだろう。いつ完成するんだろう?」と妻は疑問に思ったそうです。これほど素材感そのままの仕上がりになるとは想像もしていなかったみたいですね。
独特の照明、カフェのようなエクステリア。
いい雰囲気といい性能を程よく掛け合わせて。
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- これまで室内についてお話を伺ってきましたが、実は外観も非常にユニークですよね。まるでカフェのような印象を受けます。
実際、幼稚園の集まりのときに「え、あのカフェっぽい家?」って言われたこともあるんですよ。外壁は塗り壁になっているのですが、これはモルタルの搔き落としと呼ばれる手法だそうです。なにか特別な仕上げを施したものではないのですが、左官屋さんに頑張って塗ってもらいました。
■ナチュラルで高級な風合いの出る掻き落とし仕上げは左官職人の腕の見せ所
また、外からだと、裸電球を吊り下げて照らされている室内の照明の様子がちらっと見えて、少し変わった雰囲気のように見えるのかもしれませんね。その様子をわずかに見せているのは、この窓のブラインドによるもの。実はこのブラインド、家のなかではなく外側に取り付けられています。窓の内側にカーテンを引くのはちょっとな…、と思ったので、こういうやり方にしてもらいました。そのブラインドの隙間から、オレンジの光が漏れて見えている、というわけです。
■まるでカフェのようなブラインドの隙間から漏れるオレンジの光
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- 確かに照明も面白いですよね。この空間の独特の雰囲気を演出しているような。
キッチンや食卓で作業するときとか、子どもたちが勉強するときとか、手元がはっきりと見えてほしいときにはスポットで白いライトもつけますが、基本はオレンジの弱い光だけを照らすようにしています。なので、全体的にやや暗めの雰囲気になるんですね。でも、テレビを見ているだけの時間だったり、お風呂から上がったあとの時間だったりというのは、この薄暗いオレンジの光だけの方が、騒ぐこともなく静かな感じで、お休みモードになってどんどんくつろげる…、という感じです。
これから家を建てるかたへのアドバイス
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- これから家を建てるかたにアドバイスは何かありますか?
「見える収納」にしたいのか「隠す収納」にしたいのか。
その点はご家族で話合って意見を合わせておいたほうがいいかなと思います。
「収納スペースをたくさん確保したい」というのは家づくりにおける妻の要望のひとつでした。でも、それを「見える収納にしたい」というのは私の要望なんです。この、収納を見えるようにして良かったのか、見えないようにした方が良かったのかは、今でも妻と私で意見が分かれるところです。私は「見えない収納をしてしまうと、結局探しても見つからないとか、同じものをまた買ってしまうとか、捨てるべきものが捨てられない」というふうに考えているんですね。それに対して妻は「見える収納はセンスが問われるから難しい。空間をすっきりさせるには見えない収納の方がいい」と言っています。収納は見える方がいいのか隠れた方がいいのかというこの問題が解決するまでには、まだまだ時間が必要かもしれませんね。
■右側の子供スペースも含め何がどこにあるのかすぐ見えるオープンで大容量の収納棚
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- 雰囲気がいい、そして広々として気持ちがいい。そんないい家づくりができましたね。
もともとは築35年にもなる店舗兼住宅の店舗部分のリノベーションですから、確かに十分な空間があって、吹き抜けで、広々としてとても気持ちはいいです。でもその反面、広いぶんだけ冬などは部屋が暖まりにくくなってしまいますから、室温の快適さを保つことが難しくなりがちです。でも、そこは、もともとの空間よりも断熱性能を高める工夫をして、さらには床暖房にすることで解決を図りました。おかげで冬でも暖かな室温を保てて、快適に過ごせます。このように、雰囲気だけでなく、しっかりと性能も上げていくということもまた、とても大切なことのように思いますね。
■窓の外が見えなくても緑を感じられる観葉植物コーナー